もう一度、歯を磨こう
雨の降っている休日のことだった。
ねむれない。ねむれないのだ。
夜ご飯を早めの時間に軽く食べたら、
現在0:37、全く眠れません。
お腹すいた・・。真っ暗な部屋の中で何度か声に出して言ってみる。うん、むなしい。
こんな時間に何か食べるなんて以ての外。女子の風上にもおけない。
お腹すいたよぉ〜〜。声に出して言ってみる。うん、やはりむなしい。
明日もお休みだし、午前中用事もない。だけど、お肌のことや身体のことを考えると、早めに寝たいという気持ちは少なからずある。
その時、キッチンの電気がパッとついた。
わたしの部屋はキッチンに隣接していて、キッチンの電気がつくとうすーく細い光が入ってくる。
わたしはのそのそと立ち上がり、キッチンに出ると、姉がいた。姉はぬぼーっとした顔で立っており、私と同じくキッチンの照明に耐えきれない、といった顔をしている。
『お腹すいた〜〜』
「ココア飲む?」
姉は初めからそのつもりだったようで、もうコップを食器棚から出そうとしていた。
え〜〜この時間にココア〜?それってやばくない〜?ダイエットしてるのに〜?しかも牛乳今日たくさん飲んだしな〜?歯磨いちゃったしな〜どうしよっかな〜?
『のむ。豆乳でつくって』
最初から飲む気だった。たぶん。
レンジの前でココアを待ちわびている間、母も起きてきた。この時間までdビデオでドラマを見ていたらしい。女子高生か。
気づくと姉のベットに3人で腰掛けながらココアを飲んでいた。
1人だと罪悪感にまみれてしまうものが、3人になるとここまで心強い。
合計何キロあるのだろうかとか、誰かが立ち上がったらひっくり返らないだろうかとか、
そんなくだらない会話しかしていないけれど、
なんだか妙にほっとする瞬間だった。
明日の朝にはきっと忘れてしまう。
でもこの感覚を覚えておきたいな。
わたしが生まれてからの記憶の中で「家族」というものは、ずっとこの3人だった。
祖父母は近くに住んでいたし、親戚もいるけれど、20何年もこの3人で生活してきた。
おんなじような顔をした女が3人。
いずれは誰かが欠けていくんだろうか、
我が家はかなり遅いほうだと思うけど、
その時はいつか来るのだろうか。
ずっとこのままではいられない。
それはずっと遠くのことのようで、
すぐ隣にまで来ているかのようだった。
誰にとっても時間は同じ分量で流れる。
長い人生だし、夜中にココア飲む時間があってもいいよね。
めんどくさいけどもう一度、歯を磨こう。
おやすみなさい。